野球が大好きだった少年がまだ幼い頃父と夕暮れ時の公園で日が暮れるまでキャッチボール・・・。
なんて、想い出は
残念ながら・・・ない。
もっぱらキャッチボールの相手は家の前にある石の壁。
もちろん真っすぐボールが返ってくる事も
「いいぞ!ナイスボール!」
なんて声もない。
しかし、野球をしている時が最高に楽しかった少年にとって
それは十分満足のいくものであり
そしてそれは何も変わらない日常の光景でもあった。
そんな少年は父との数少ない想い出の中で
今でも忘れられない想い出があった。
それは 「広島市民球場・・・。」
今と違ってファンはライトスタンドで盛り上がるというよりも
センタースタンドで盛り上がっていた当時。
少年の目に飛び込んできたもの・・・。
法被姿で誇らしげにトランペットを掲げる大人達
扇子を振り回す白い鬼
紙コップの底を破りメガホン代わりにする赤い顔の大人
そして カクテル光線に照らされる真っ赤な「8」
少年はそれらの光景を目で追い 杓文字を打ち鳴らした。
そこにある全てが新鮮で全てが初めて。
そこはまさに夢の空間「ボールパーク」だった。
しかし、広島市民球場で試合がある時
その少年の父は必ず仕事だった・・・。
だから野球観戦ももっぱら少年一人。
しかし、周りの大人たちはそんな少年を暖かく助けてくれた。
カープうどんやジュース、アイスクリーム・・・。
何でもその少年に買ってくれた。
今、思えばそれは少年の父が仕込んだせめてもの償いだったのかもしれない。
そんな少年はやがて大きくなり
父というよりも友人達とその場所へ通うようになった。
あの時見た大きな背中の「8」番がバットを置いた時も
休む事なくグラウンドに立ち続けた「3」番がユニフォームを脱ぐ時も
「88」番が広島で一番きれいな夜空に舞った時も
大人になった少年は
あの時の様に想い出の場所でその瞬間を見届けた。
そして・・・あれから何十年も時が流れた・・・。
その想い出の場所が取り壊されることになるらしい・・・。
この早い時代変遷。
使用価値の薄れた物を維持する事の難しさ。
いろんな事情が交錯する中において
それは仕方がない事・・・。
だと・・・思う・・・。
たぶん・・・。
広島市民球場で聞こえていた‘ヤジ’の数々。
選手達も良く聞こえていたらしい。
しかし、あの狭い「広島市民球場」よりも
今の「新広島市民球場」の方が
より‘ヤジ’が聞こえるらしい。
ある知り合いの野球人はこんな事を言っていた・・・。
「僕はカープやカープファンはあまり好きではない。
でも、このチーム、このメンバーは大好きだ。
だからグランドでみんなと一緒にビール掛けがしたい!」
・・・と。
腹がたつ事もあるだろう。
もどかしい時もあるだろう。
でも、今シーズンはとことん応援してみることにする。
前よりも良く見えるようになったスタンドから
グランドのビール掛けを見る為に・・・。
あの想い出の地では二度と見られないのだから・・・。
「俺たちも勝つ」である。

